ツール・ド・フランスのコースは毎年異なり、101あるフランスの県をさまざまなルートで巡ります。新たなコースをきっかけに、多様性に富んだ広大なフランスの新たな地域に出会えるのも、このレースの醍醐味です。また、各地で受け継がれてきた豊かな食文化に触れる絶好の機会でもあります。
2026年のルートは、由緒あるワイン産地や有名な牧草地帯、トリュフの名産地を巡ります。そこで今回は、ツール・ド・フランス2026のコースに沿って、注目のグルメスポットとそこでぜひ味わいたい名物をご紹介します
グラン・デパール(開幕地):バルセロナ
ツール・ド・フランスは、国境を越えて、ドイツやイタリア、ベルギーなどの近隣諸国で開幕することもあります。2026年大会は7月4日にスタートし、そのグラン・デパール(開幕地)はバルセロナです。カタルーニャ地方の食文化には、ピレネー山脈を挟んで隣接するフランスとの共通点が数多く見られます。そこで、スペインの定番料理にフレンチテイストを取り入れたフランス風タパスを考案してみました。グラン・デパール観戦パーティーにぜひどうぞ。
ピレネー山脈:カルカッソンヌからポーへ
ツール・ド・フランス2026の序盤では、レ・ザングルからピレネー山脈に登り、フランス南西部の中心にある中世の城塞都市カルカッソンヌへと下ります。この温暖な山岳地帯の牧草地ではラコーヌ種の羊が放牧され、そのミルクからオッソー・イラティやトム・デ・ピレネーといった、ナッツのような風味を持つ素朴なセミハードチーズが作られています。
さらにコースを西に進みポーへ近づくと、ハムやシャルキュトリーの名産地を通過します。有名なジャンボン・ド・バイヨンヌ(バイヨンヌ産生ハム)やビゴール黒豚は、この南西部の谷あいで生産されています。名高いベアルンの塩泉、豊富な穀物、そして穏やかで乾燥した夏の気候が、シャルキュトリー作りに理想的な環境を生み出しているのです。
ボルドーの贅沢なグルメ
ツール・ド・フランス2026の第7〜第9ステージでは、ガロンヌ川の流域を上流へと進み、素朴なチーズや加工肉の産地であるピレネーから、銘醸地として知られるボルドー地方へと入ります。ガロンヌ川の左岸には、ラフィット、ラトゥール、ムートンなど、フランスワイン文化の礎を築いた世界有数の名門シャトーが並びます。左岸派でも右岸派でも、ボルドーの由緒あるテロワールについて詳しく知りたい方は、このガイドをご覧ください。
ボルドーだけでも十分に魅力的ですが、今回のコースはさらにベルジュラックやペリグー(憧れのペリゴール産トリュフの産地)を通り、リムーザン牛の放牧地を駆け抜けます。繊細な風味を持つ赤身肉は、レアステーキやドライエイジングに最適です。今年の夏にツール・ド・フランス観戦旅行を計画しているなら、ボルドー周辺のステージほど美食を満喫できる場所は他にないでしょう。
カンタル:フランス屈指のチーズ産地で過ごす休日
1週間半にわたる過酷なレースの後、ツール・ド・フランスは7月13日にカンタルで休息日を迎えます。カンタルは、フランス中部に広がる古来の火山地帯、中央山塊の南端に位置しています。休火山が連なる高原には、肥沃な黒土と生物多様性に富んだ牧草地が広がり、フランス有数のチーズの原料となる乳を生み出す牛たちが育てられています。
カンタルは、世界でも最古級の記録が残る伝統的な製法で作られるチーズです。繊細な味わいのフルム・ダンベールや、牧草のような香りを感じさせるブルー・ドーヴェルニュは、ブルーチーズが苦手な人でさえ虜にするでしょう。
もしかすると、ツール・ド・フランスのコース設計者はサン=ネクテールの大ファンかもしれません。今大会の開催時期は、このチーズが旬を迎える絶好のタイミングだからです。熟成期間がわずか3週間と短いサン=ネクテールは、ミルクそのものの複雑な個性を味わえるチーズ。特に7月上旬は、早春から夏にかけての牧草の風味が、その味わいに色濃く表れる季節です。ただし、チーズの食べ過ぎにはご注意を。まだレースは半分しか終わっていません。
アルザス
レースはブルゴーニュとフランシュ=コンテを経て、フランスの北東端のアルザスに到着します。農業が盛んなライン川流域は、フランスとドイツの国境にあたるため、この地域のワインや言語、料理には両国の文化交流の歴史が反映されています。ライン川を見下ろす段々畑で栽培されるゲヴルツトラミネール、ピノ・グリ、リースリングからは、爽やかなアルザスワインが造られます。一方で、料理はボリュームのあるものが多く、タルト・フランベや、燻製香とパリッとした食感が特徴のストラスブール・ソーセージなどが有名です。長い一日のツーリングの後には、美味しいソーシス・ピュレと一杯のクレマン・ダルザスが疲れを癒やしてくれるでしょう。
フレンチアルプス
さらに、レースは南に向かい、フレンチアルプスへ。峰々はさらに高く、谷はさらに壮大な景観を見せます。この有名な山岳ステージの険しいカーブでは、総合首位の証であるマイヨ・ジョーヌをかけた激しい争いが繰り広げられます。この地域はツーリングのみならず、スキーや登山でも名高いスポーツの聖地です。
フランスアルプスは、美食の宝庫でもあります。サヴォワ地方はエメンタールチーズやラクレットの産地として知られ、シャルトリューズ山塊の修道士たちは、同名の有名なリキュールを今も醸造しています。この地方の料理は、起伏の激しい地形で消費したエネルギーを補うのに最適です。ツーリング後にお腹を空かせて囲むラクレットやフォンデュの美味しさは格別です。
最後はパリへ
例年通り、ツール・ド・フランスの最終日は首都パリの細い街路とオスマン様式の大通りを縫うように駆け抜けます。フランス各地から極上の食材が集まり、活気あふれる首都のレストラン文化が花開いているのも、このパリの魅力です。そしてシャンゼリゼ通りへ到着すると、ツール・ド・フランスは幕を閉じます。この大会は単なるトップレベルのロードレースではなく、毎年繰り返される伝統でもあります。自転車のサドルにまたがって、あるいは自宅のソファでくつろぎながら、多様性に富んだフランス各地を巡る年に一度の機会なのです。
Contributor
Cook & writer