もちろん、フランス菓子の生地はこれだけではありません。砂のようにほろりとほどけるパート・サブレ、甘いタルトにも塩味のタルトにも使えるサクサクのパート・ブリゼも外せません。しかし、フランス菓子の多彩な表情を見せてくれる生地は、やはりパート・フィユテ、パート・シュクレ、パータ・シューの3つなのです。
この3種の生地があれば、層になったものから、サクサクのもの、バターたっぷりのもの、フィリングを詰めたもの、甘いものから塩味のものまで、さまざまな定番のフランス菓子が作れます。パルミエやミルフィーユ、いろいろな甘いタルト、シュークリーム、エクレア、グジェールまで、レパートリーが広がります。
今回は、それぞれの生地を詳しく紹介し、この3種がフランス菓子にとって特別な理由を説明しましょう。
パート・フィユテ
パート・フィユテとは、フランス語で「葉のような」「層になった」生地という意味。焼き上がりを見れば納得するはずです。
この生地は、万人に愛される、バターの風味豊かなフランスのパイ菓子の多くに使われます。ミルフィーユ、パルミエ、ヴォロヴァン、ピティヴィエ、ガレット・デ・ロワ、ショソン・オ・ポム……ひと口かじると、はらりと崩れる華やかなペストリーを思い浮かべてください。
© Molly Wilkinson
昔ながらのパート・フィユテは、生地でバターの塊を包み、何度も伸ばしては折りたたんでいきます。折るたびに、生地とバターの層が重なっていくのです。これをオーブンに入れると、バターが溶けて蒸気が発生し、生地の層を押し広げるため、見事にふくらんでサクサクの軽やかな食感が生まれます。
大切なのは、バターがだれないように冷たい状態を保つこと。早い段階でバターが生地に溶け込んでしまうと、きれいな層ができません。層ができないとパイはふくらみません。
伝統的なパート・フィユテは、小麦粉とバターを重量比1対1で合わせ、生地をまとめるための水を加えて作ります。ごくシンプルに思えますが、実は技術が仕上がりを大きく左右するレシピです。
© Molly Wilkinson
さらに、主役となるバターの品質も非常に重要です。パート・フィユテでは、バターは単にコクを与えるだけの材料ではありません。層を作り、ふくらませ、サクサクの食感をもたらし、風味の決め手となります。だからこそ、上質なフランス産バターを使うと、仕上がりがまったく違い、フランスの伝統的なペストリーらしい特別な香りと深みが生まれます。また、バターに含まれる脂肪分が高いほど、風味が増し、冷たい状態でもしなやかなので扱いやすくなります。
もっと手軽に作れる簡易的なパイ生地もあります。細かくしたバターを生地に混ぜ込んでから折りたたむ方法です。伝統的なパート・フィユテほどきれいな層はできませんが、バターの風味と軽やかな食感は味わえます。初心者におすすめで、実は、私自身もお気に入りの方法です。
パート・シュクレ
パート・シュクレは、私が好きなタルト生地。サクサクで甘く、バターの豊かな風味と繊細な口溶けが魅力です。チョコレートガナッシュのタルト、レモンタルト、フルーツタルト、カスタードクリームのタルトなど、歯触りの良い土台が必要なフランスの定番タルトを作るときは、いつもこの生地を使います。
パート・シュクレの特徴は、生地の配合にあります。単に小麦粉、バター、砂糖を合わせるのではなく、アーモンドパウダー、(グラニュー糖ではなく)粉糖、バニラを加えて作るのです。
アーモンドパウダーは、生地に豊かな風味やコクを与えます。控えめでありながら、まろやかな味わいを加え、タルト生地を上品に仕上げます。粉糖は生地のサクサク感を保ちつつ、口の中でほどけるような食感を生み出します。そこにバニラを加えれば、さらに美味しさが引き立ちます。
パート・シュクレの魅力は、クリーミーなフィリングとのコントラストにあります。なめらかなチョコレートガナッシュ、爽やかなレモンカード、まろやかなカスタードクリームを入れるのは、バターの風味豊かなサクサクのタルト台。このコントラストこそが、極上のタルトに仕上げる決め手です。
パート・シュクレの作り方を覚えれば、タルト以外にも応用できます。小さなクッキーやタルトレット、リュネット・ド・ロマン(ジャムを挟んだフランスの甘いサンドクッキー)などにアレンジすることも可能です。
簡単そうな生地の一つですが、上手に作れるようになれば、限りなくバリエーションが広がります。
© Molly Wilkinson
甘いタルトにも塩味のキッシュにも使用できる同系統の生地には、パート・サブレとパート・ブリゼもあります。パート・サブレはパート・シュクレに似ていますが、通常はアーモンドパウダーや粉糖を使わずに作ります。一方、パート・ブリゼは、クラシックな練りパイ生地のフランス版です。くせのない土台にしたいときや、サクサクした軽い食感にしたいときは、この2つを選びます。
パータ・シュー
パータ・シューは、ほかの2つとはまったく違う作り方をするため、3種のなかでも特に面白い生地です。
まず、鍋をコンロにかけて作るという点からしてユニークです。水または牛乳とバターを加熱したら、小麦粉を加えて生地がまとまるまで混ぜ合わせます。さらに卵を加えながら混ぜ、なめらかでつややかな生地に仕上げたら、絞り袋に入れてさまざまな形に絞り出します。
© Molly Wilkinson
パータ・シューは焼き上げると大きくふくらんで中が空洞になるため、フィリングを詰めるのにぴったり。シュークリーム、エクレア、ルリジューズ、パリ・ブレスト、プロフィットロールといったフランスの定番菓子に使われる生地です。
この生地は塩味のペストリーにも使われます。コンテやグリュイエールといったお気に入りのフランス産チーズを加えれば、やみつきになるほど美味しいグジェールに。焼きたての温かいチーズグジェールをまだ味わったことがない方は、ぜひ一度お試しください。
パータ・シューを作るうえで最も大切なのは、しっかりと焼くこと。中が空洞になるため、オーブンの扉を早く開けすぎたり、焼きが足りなかったりすると、しぼんでしまいます。外側が濃いきつね色になるまでこんがりと焼き、形を保てるように中まで十分に乾燥させましょう。
仕上がりに差がつくフランス産食材
この3種の生地が好きなのは、シンプルなフランス産食材の魅力を際立たせてくれるからでもあります。小麦粉とバターはごく基本的な材料ですが、フランス菓子では特に重要な役割を果たします。バターは風味やコク、豊かな香りをもたらし、小麦粉は生地をしっかりと支え、バランスを整えます。どちらも、生地の仕上がりを左右する大切な要素なのです。
風土に根差したレシピの背景には、農業大国ならではの豊かな恵みがあります。フランスは欧州連合最大の軟質小麦の生産国・輸出国であり、年間平均生産量は約3,500万トン。フランスの製粉業者は年間約400万トンの軟質小麦粉を生産しています。この小麦粉がタルト生地やシュー生地、パイ生地の原料となり、さまざまなフランス伝統菓子のベースになるのです。
基本の3生地から広がるバリエーション
この3種の生地の素晴らしいところは、さまざまなレシピに使用できるという点です。
パート・フィユテがあれば、バターたっぷりの軽やかなペストリーが作れます。パート・シュクレがあれば、華やかなタルトやクッキーのベースになります。パータ・シューを絞り出して焼き、フィリングを詰めれば、一つの生地から甘いお菓子も塩味のスナックも作れます。
それこそが、フランス菓子の魅力です。難しそうに見えますが、こうした魅力的なデザートに求められるのは、いくつかの基本的なテクニックと極上の材料、そして焦らず丁寧に作ることです。
3種の生地をマスターすれば、フランス菓子はもっと身近に、もっと楽しくなること間違いなしです。
Contributor
Pastry chef