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歴代大統領とワイン

安田まり 安田まり , ワインライター 2021.12.20
mari_yasuda

世界を代表するワイン生産国であるフランス。その大統領ともなれば、さぞや高級な美味しいワインをお楽しみだろうと想像しますが、立場上、控えめに飲んだり、お酒を一切飲まない方もいらっしゃれば、ビール好きの方もいらっしゃいました。戦後の第五共和制の8人の大統領と、お好みのワインについて、見てみましょう。

シャルル・ド・ゴール(1959-1969)

パリの玄関口の空港にその名を残すド・ゴール将軍。現在に続く第五共和制の最初の大統領です。ご本人は、お酒はあまり多くは召し上がらなかったそうですが、ご自身の出身地であった、コート・デ・バール地区のシャンパーニュは特に好まれたそうです。現在の大統領官邸であるエリゼ宮にカーヴをつくったのもド・ゴール将軍です。

ジョルジュ・ポンピドー(1969-1974)

公私にわたり、控えめに飲んでいたというポンピドー大統領は、ロスチャイルド銀行の頭取を務めていたことがあり、また首相に任命したジャック・シャバン・デルマも約50年にわたりボルドー市の市長であったので、自然の流れで、エリゼ宮ではボルドーワインが多く供出されるようになりました。ポンピドー大統領ご本人は、ボルドーでも、ロスチャイルド家の絢爛たるシャトーのものよりも、お手頃価格のシャトーのものや、カオールのワインを好まれたそうです。

バレリー・ジスカールデスタン(1974-1981)

ジスカールデスタン大統領はワインがお好きだったそうで、赤ワイン、特にブルゴーニュのシャンベルタン、シュヴァル・ブラン、そしてシノンも好まれたそうです。

フランソワ・ミッテラン(1981-1995)

ミッテラン大統領は、この第五共和制の大統領の中でただひとり、コニャックの産地であるシャラント県、つまりワイン産地の出身です。ミッテラン政権のもとで、酒類やタバコの広告を厳しく規制するエヴァン法が成立しました。そのせいか、ご自分の好きなワインのことは控えめに話していたようですが、ボルドーのサン・テステフのワインやロワールのサンセールの赤ワインを好まれたそうです。

ジャック・シラク(1995-2007)

シラク大統領は、ワインよりもビール(コロナビール)を好まれました。奥様で政治家のベルナデット・シラク氏はワインが好きで、特にボルドーのポイヤックのワインを特に好まれたそうです。シラク大統領の任期中、エリゼ宮のカーヴのワインの予算は増額され、奥様がしっかりとカーヴを管理しました。

シラク氏は、1972年から74年、農相をつとめ、特に南仏のラングドック・ルーシヨン地方のワイン産業に大きく貢献しました。当時のラングドック・ルーシヨンのワイン産業は、販売が停滞し、過剰生産となり、さらにはアルジェリアやイタリアから流入する安いワインの影響を受けて苦しんでいました。この時、量から質への構造改革を後押ししたのが農相のシラク氏でした。さらに、品質の良いヴァン・ド・ターブルを、ヴァン・ド・ペイ・ドック(現在のIGPドック)として発展させることにも貢献しました。

大統領となってからも、フランスの農業を発展させるべく尽力し、年一回パリで行われる農業見本市には、農相となった1972年から、大統領をやめたあとの2011年まで、事故でいけなかった1回を除き毎年赴き、生産者たちと対話しました。農業界から大変信頼されていた大統領です。

ニコラ・サルコジ(2007-2012)

サルコジ大統領は、お酒を召し上がらず、食事中は水を飲む大統領として知られました。サルコジ大統領の在任期間中に、エリゼ宮のカーヴのワインの本数は、約25,000本と最も膨れ上がりました。

フランソワ・オランド(2012-2017)

オランド大統領は、エリゼ宮のカーヴの豪華絢爛なワインの一部を競売にかけ、手にした資金で、カーヴの在庫を、より価格の控えめなワインにしました。パリの農業見本市では、12時間滞在し、シラク大統領の10時間という滞在時間の記録を塗り替えました。ワインは召し上がりますが、特にこれが好き、というものはなかったようです。 

エマニュエル・マクロン(2017- )

マクロン大統領は、ワインの愛好家として知られています。2017年の大統領選挙を前に、フランスのワイン専門誌のインタビューの中で、好きなワインについて問われ、このように答えています。「白は、全般的にブルゴーニュが好きです。赤は、ボルドーですね。ただ、ローヌ渓谷のワインも良いなと思いつつあります。ロスチャイルド銀行にいたときは(注:2008-2012年)、確かに味覚を鍛える機会に恵まれました。でも、毎日のお昼にラフィットを飲むというような機会はありませんでしたけどね。もっと親しみやすいワインを飲んでいました」。

2022年、フランスは大統領選挙の年を迎えます。ワインを愛するマクロン大統領が続投となるのかどうか、注目の年となりそうです。

[主な参考資料]

Le Monde, “Vins : Les chefs d’Etat de la Ve République entre raison et défense du terroir” (2018年4月28日)

Terre de vins,” Macron, le président qui aimait le vin” (2017年5月7日)

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