飛ぶように売れ続け、どこまでも進化するアルデッシュ産の栗

サバトン社は、100年以上前からアルデッシュ地方で栗の加工を手がけてきました。1907年に創業したフランスの家族経営企業が、地域の土壌と歴史に根差した独自の職人技を守っています。同社を率いるアナトール・サバトン氏に話を聞きました。

 

MTM chestnuts

 アルデッシュ地方の中心部にあるサバトン社は、1世紀以上にわたる伝統を受け継ぎ、丁寧な手仕事によって極上の味を守ってきました。その営みは、1907年の創業当初からほとんど変わっていません。28歳のアナトール・サバトン氏は、この家族経営企業を率いる4代目であり、いまやフランスの栗加工業界を代表する存在でもあります。

 

 忘れられていた果実の復活

昔から、栗はアルデッシュ地方に暮らす人々にとっての主食でした。大規模農業に適さない丘陵地帯において、丈夫で手がかからず、痩せた土壌でも育つ栗の木は救世主のような存在だったのです。栗は乾燥させて粉に挽かれ、スープやパンに使われていました。

しかし、農村部から人口が流出し、ライフスタイルが変化するにつれ、栗はあまり好まれなくなりました。栗が再び脚光を浴びたのは、2000年代に入ってからのことです。アナトール・サバトン氏は次のように語っています。「AOC、そして2014年にAOPを取得したことがターニングポイントになりました。それ以来、アルデッシュ県はフランス最大の栗の産地として再浮上しています。AOCとAOPの認証は業界全体に大きな自信をもたらし、栗製品の人気も大いに高めました」

いまや、AOPアルデッシュ産の栗は地域再生の象徴となっています。この認証を支えているのは、伝統を受け継ぎながら革新を推進し、この生きた遺産を守っている人々です。サバトン社は、原料をすべて地元の生産者から調達することで、この地域再生において重要な役割を果たしています。

 

大地の恵みの象徴であり、地域のランドマークでもある栗の木

アルデッシュ地方における栗の木は、単なる果樹ではなく、いつの時代も変わらぬ大切な存在。丘の斜面や集落の外れ、時には森の中にも生えています。その節くれ立った幹と生い茂った葉が、数世紀にわたる農村の営みを見守ってきました。アナトール氏は言います。「栗の木は、昔からこの土地の風景の一部でした。水をあまり必要とせず、厳しい環境にも適応できる丈夫な樹が何世代にもわたって地元の食を支えてきました」

かつて「パンの木」と呼ばれていた栗の木は、起伏に富んだ地形でもよく育つことから、山岳地帯であるアルデッシュ地方を象徴する存在となりました。現在でも栗は重要な栄養源と見なされていますが、グルメな食材の代名詞にもなり、デザートや菓子に使用されるのはもちろん、高級レストランでも人気を博しています。

 

収穫を支える伝統の技

道具は時代とともに進化してきましたが、栗の収穫は今でもなお、根気のいる丁寧な作業です。秋になると、生産者は木の下に大きなネットを設置します。栗は自然に木から落ちてくるため、それを手作業、または携帯型の吸引式収穫機で集めます。

「手間の掛かる作業です」とアナトール氏は説明します。「栗園は小規模で、ほとんどが家族経営。起伏があるため、機械を使うのが難しいのです」収穫すると、次は選別という重要な工程が待っています。栗を等級で分け、皮をむき、加熱して、ピューレやパウダー、ペースト、コンポートといったさまざまな製品のベースに加工します。この加工プロセスこそがサバトン社ならではの工程であり、その大部分は手作業で行われます。職人の技術、目、そして正確さが、完成品の品質を左右するからです。

甘い伝統食材

マロンクリームはフランス料理に欠かせない食材です。主として甘い菓子に使われますが、塩味の料理にも合います。このフランスらしい美味の中核となるのは、きめ細やかな職人技と極上の原材料です。「まず栗のピューレを作り、裏ごしして皮を取り除いたら、シロップを加えて混ぜ、ゆっくりと火を通します。簡単そうに思えますが、決め手となるのは栗の選別と火入れです」(アナトール氏)

マロンクリーム特有の風味は、甘み、食感、そして栗本来の風味が織りなす絶妙なバランスから生まれます。その味わいは、子どもの頃のおやつ、アルプス地方のデザート、日曜に家族で囲むケーキといった、フランスらしいライフスタイルを思い起こさせます。「マロンクリームには普遍的な魅力があります。素朴さを連想させ、思い出を呼び覚ますため、万人に愛されています」(アナトール氏)

丹精込めた手仕事

ホリデーシーズンの主役として名高いマロングラッセも、サバトン社が誇る珠玉の逸品です。この贅沢な美味を作るには、職人の高度な技と細心の注意が求められます。「鬼皮も薄い渋皮も手強いため、手でむくしかありません。取り出した実が割れないように一粒ずつチュールで包み、糖衣をかけ、型から外したら、手作業で包装します」

この丹精込めた職人技が、価格に見合う最高の品質を支えています。一粒一粒に糖衣をからめる工程は、何時間もかかる繊細な作業です。こうしてできあがった、つややかなマロングラッセは、フランスの洗練された食文化を象徴するクリーミーなスイーツです。「大量生産品ではありません。愛情を込めて作った製品なのです」

霜がおりる頃になると、栗がディナーテーブルを飾ります。屋台で焼き栗にしたり、煮てクリームにしたり、キャセロールや甘いデザートに加えたりして楽しみます。栗のシーズンはクリスマスから年末年始にかけてクライマックスを迎え、七面鳥や鹿肉の付け合わせにしたり、砂糖漬けにしてシンプルに味わったりします。安らぎと伝統を象徴する栗は、居心地の良い雰囲気と永遠のノスタルジアを背景に、冬の料理の主役としてもたびたび登場します。

変わりゆく業界

栗の木は丈夫で回復力がありますが、近年は数々の新たな試練に直面しています。夏の乾燥や霜の時期の遅れといった気候変動によって栽培サイクルが変化しているだけでなく、インク病やクリタマバチといった病気や害虫の脅威にもさらされています。

それでもアナトール氏は自信を持っています。「栗の木は暑さに強い。そして何より、業界全体が再編されました。AOPの認証取得が追い風となり、栗林に新たな息吹を吹き込もうとする若い生産者が登場しています」

サバトン社も変化に適応し、サステナビリティやトレーサビリティ、サプライチェーンの短縮に重点を置いた新たな取り組みを進めています。アナトール氏はこう力説します。「私たちは地元の生産者と協力しています。一瓶一瓶のクリーム、一粒一粒のマロングラッセを通じて本物のストーリーを伝えたいと思っています」

未来と記憶をつなぐ製品

栗は、単なる過去の遺物ではありません。人々が意味を求める今の時代において、その自然な特性、高い栄養価、本物の味わいが新たな支持層を獲得しています。「栗は、現代のニーズにぴったりのヘルシーでグルテンフリーの果実。新たな料理で新たな魅力が花開く、確かな将来性もあります」とアナトール氏は言います。

オーブナの工房に漂う、熱した砂糖とマロングラッセの香りは、今も息づく伝統の証です。銅の大釜と果実の箱が並ぶサバトン社は、伝統と現代性の希有な両立を体現する存在です。

アナトール・サバトン氏の経歴から感じられるのは、個人の歩みを超えた大きな物語。勤勉で豊かなフランス農村部を支える果実の宿命です。木から瓶へ、森から食卓へ。栗は季節、世代、人の営みを継いでいきます。大地とのつながり、手仕事の素晴らしさ、そして伝統の味を体現しているのです。

アナトール氏は最後にこう語りました。「栗はつながりを物語る果実です。大地、味わい、そして私たちの前に栗と向き合ってきた人々とのつながりが、時を超えて受け継がれてきました。これからも、さまざまな物語を語り継いでいきます」

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