トラクター、テロワール、そしてテクノロジー?人工知能は(まだ)ワインのテイスティングはできませんが、ブドウ栽培やワイン造り、販売にはすでに大きな影響を及ぼしています。ブドウの病気の早期発見から収穫量の予測、ブレンドの選択まで、AIはひそかにフランスのブドウ畑に根を下ろしつつあります。伝統を重んじるこの業界で、これは決して小さな革命ではありません。
AIがフランスのワイン業界にもたらしている具体的なメリットを詳しく見ていきましょう。

ブドウ栽培をスマートに、ワインをより美味しく:ブドウ畑を変えるAI
そもそも、「AIのようなテクノロジーツールがブドウ畑でどう役立つのか」と疑問に思う人もいるでしょう。AIは単なるガジェットではありません。実際、目に見える成果をもたらし、より良いワインを造るための助けになります。
例えば、ボルドーのようなフランスの銘醸地のブドウ農家を思い浮かべてください。畑にはブドウ樹が何百畝も連なっていますが、「フラヴサンス・ドレ(黄化病)」の脅威に直面しています。急速に広がり、作物に壊滅的なダメージを与える病気です。Prospect FDのような技術を利用すれば、この病気の初期兆候を早めに検知できることはご存知ですか?
収穫機に高解像度のカメラを搭載し、畝の間を走行しながらブドウ樹1本1本の詳細な画像を撮影すれば、このAIツールで病気の視覚的兆候を検出できます。そうすれば、的を絞った現地チェック、対応の迅速化、そして不要な殺虫剤の削減が可能になります。
これは、ほんの始まりにすぎません。ブドウ栽培の意思決定には、ロボットも活用されています。例えば、VineScoutというロボットでブドウのストレスや土壌の水分量、温度を測定すれば、必要な場所だけに灌漑を行い、肥料の使用量を抑え、ブドウ樹の自然なバランスを強化することができます。
これまで、こうしたツールの多くは、外側から見える部分に焦点を当ててきました。しかし、真の問題がブドウ樹の内部に隠れている場合もあります。
そこで、ブルゴーニュとシャンパーニュの研究者たちは「Scan Me if You Can」という画期的なツールを開発しました。このツールはセンサーデータとAIを活用し、内部の腐敗の兆候を非侵襲的に検出する「ブドウ樹のMRI」です。
問題を事前に検知すれば、症状が現れる前に手を打ち、速やかに対処して、樹齢100年以上の木を守ることもできます。こうした事例すべてに共通するのは、勘に頼らず、的を絞った対策を講じつつも、手をかけすぎないという姿勢。これが、レジリエントで持続可能なブドウ栽培につながります。
科学者の目線で収穫する
AIは病気の予防以外にも活用でき、収穫量の予測にも役立ちます。しかも、ブドウ畑単位ではなく、区画ごとの予測も可能です。Celectivのようなツールは、収穫機のGPSデータとリアルタイムの測定値をリンクさせ、超局所的な収穫量の推定値を試算してくれます。
生産者はこの予測をもとに、肥料の散布量や剪定戦略をシーズンごとに微調整できます。ワイン生産者は収穫計画を改善し、予期せぬ事態に備え、ブドウがセラーに届いてからの作業をスムーズに進めることができます。
タイミング、熟度、バランスがすべてを左右する収穫作業において、この予測情報は非常に貴重です。
セラーから店頭まで:ブドウ畑の先でも活用されるAI
AIは収穫後も強力なツールとなり、醸造工程の作業を進化させています。いまや、化学データやセンサーデータをもとに、インテリジェントシステムで発酵をリアルタイムに監視し、理想的なブレンドを予測することも可能です。
トレーニングでもAIが活用されています。作業者はReviVReのようなバーチャルリアリティツールでブドウ畑での作業(剪定など)をシミュレーションし、年間を通して安全かつ効率的に練習できます。人手不足に悩む業界で高い基準を維持するための賢明な方法といえるでしょう。
マーケティング分野でも、AIが消費者のワイン選びをサポートしています。WinespaceやTastryのようなアプリはフレーバーの好みや化学成分、レビューをもとにおすすめの銘柄を紹介してくれるため、適切なワインを適切な飲み手にマッチングさせやすく、小規模な生産者でも競争の激しい市場で顧客を開拓できます。
AIはワインの未来を変えるのか
ワインメーカーに取って代わるのではなく、彼らにとって有益なツールになることがAIの最終目標です。病気の早期発見から収穫計画、発酵のモニタリングまで、AIはあらゆるワインメーカーのニーズに応えます。勘に頼らず、精度を高め、品質に妥協することなく、環境負荷を低減するうえで役立ちます。
ただし、AIの導入には課題もつきものです。小規模なワイナリーでは、コスト、複雑さ、データの過負荷が依然としてネックになっています。そこで重要になるのが、ボルドーのInno’vinのようなプロジェクトです。この取り組みでは、ワインメーカーのためにツールを開発するのではなく、ワインメーカーと共同で開発することで、最先端のテクノロジーとブドウ畑の日常作業とのギャップを埋めています。
ワイン文化が深く根付き、アグリテック分野でも成長著しいフランスは、この静かなAI革命を主導する立場にあります。伝統と革新が融合すれば、ワインの未来はさらに輝かしいものになるでしょう。