フランスに暮らして10年になるアメリカ人の私は、フランスの焼き菓子ならではの特別な素材に昔から魅了されていました。その最たるものが、バターです。ル・コルドン・ブルー・パリで修行し、現在はフランスでパティシエとして働いているため、毎週大量のバターを使用しています。長年にわたって試作や試食を重ね、人にも教えてきた私が断言できるのは「フランス産バターは一味違う」ということ。乳脂肪分が多く、風味が豊かで、原産地呼称制度によって品質が守られているため、焼き菓子のクオリティを高めたい生徒さんにはフランス産バターを使うよう強く勧めています。

フランス産バターの特長
フランス産バターは乳脂肪分が通常82%以上含まれているため、風味が豊かで、食感が柔らかく、ペストリーやクッキー、ケーキの材料に適しています。
他のバターより水分が少なく脂肪分が多いため、冷たい状態でも柔らかく、扱いやすいので、パイ生地が理想的な仕上がりになります。常温に戻す必要がなく、手早く折り込めるのです。
私はクライアントにも、パイやクロワッサンに使うバターを乳脂肪分82%のものに切り替えるよう勧めています。なぜなら、ペストリー生地にとって最大の敵は、混ぜているうちにバターが温まってしまうこと。冷たいままのバターを生地にすばやく折り込めば、サクサクの層ができます。
さらに、フランス産バターの多くは発酵させてあるため、ほのかな酸味と複雑な風味が楽しめます。他国のバターは概してよりマイルドな味わいです。
フランス産バターを作るには、生クリームを攪拌してバターミルク(水分)を除去します。1キロのバターを作るには、20リットルの牛乳が必要です。こうしてできたバターは棒状に成形されます。ちなみに、フランス産バターに筋が入っているものが多いのは、木の板を使って手作業で成形しているからです。
フランスでは、バターを単なる製菓材料ではなく、大切な特産品として保護しています。特に評価の高いバターのなかには、原産地と伝統的な製法を証明するAOP(Appellation d'Origine Protégée:原産地保護呼称)というラベルが付いているものもあります。このラベルは、特定の地域で地元の牛乳と伝統的な手法を用いて製造されたことを保証しています。例えば、ノルマンディーのAOPイズニー産バターとAOP ポワトゥ=シャラント産バターは、リッチな風味とクリーミーな食感でパティシエから人気があります。AOPラベルの付いたバターを焼き菓子に使うと、特別な材料だと実感します。フランス料理の伝統に深く根ざした、風味豊かで確かな品質のバターなのです。
フランス産バターを焼き菓子に使うメリットとその選び方
脂肪分が多く、水分が少ないフランス産バターを使えば、サクサクのペストリーやしっとりした焼き菓子に仕上がります。クロワッサンやパイ生地などの折り込み生地では、しなやかでコクのあるフランス産バターが美しい層を生み出し、見事なふくらみや極上の食感をもたらします。
焼き菓子に使うフランス産バターは「doux(無塩)」または「demi-sel(有塩)」を選んでください。ほとんどのレシピでは、無塩バターの代わりに有塩バターを使用できます(特にブルターニュ地方では有塩バターが主流)。ただし、有塩バターで代用する場合は、レシピに書いてあっても塩は加えないこと。それでも、元のレシピよりやや塩味が増します。
最後に一点、「gros-sel(大粒の塩が入った有塩バター)」は、タルティーヌや溶かしバターを使ったレシピに使いましょう。大粒の塩は生地になじみにくく、塩の塊がそのまま残ってしまうことがあります。

© Krystal Kenney
タルティーヌにおすすめのバター
ぜひお伝えしたいのは、フランスでは用途に合わせてバターを使い分けるのが一般的だということです。製菓・製パン用のバターと、そのまま食べるためのバターは別物なのです。
タルティーヌは、バゲット(たいていは前日の夕食の残り物)をトーストしたもので、上質なフランス産バターをたっぷり塗って食べる朝食の人気メニューです。
タルティーヌのような料理では、バターの品質が何よりも重要です。最高の味わいを楽しみたいなら、特別なバターを使いましょう。特に、大きな塩の結晶が入ったバター、職人が手練りする製法と海藻や柚子などの多様なフレーバーで知られるボルディエのバターなどがおすすめです。
新鮮なラディッシュにバターを添えたアペリティフも定番です。
In a nutshell 🧈
Contributor

Pastry chef