中世の宮廷の饗宴から現代のミシュラン星付きレストランまで、フランスが極めたテーブルアートをご紹介します。食卓の芸術の歴史について知る――ユネスコ無形文化遺産にも登録された美食の至宝、フランス料理のしきたり、デザイン、美食について紐解いていきます。

Arts de la table

フランス人にとっての食卓文化は、単なる「こだわり」という言葉では言い表せません。2010年には、フランス料理とその文化と伝統がユネスコ無形文化遺産に登録されました!今回はその歴史をご紹介します。フランスの宮廷は何世紀にもわたり、食事を芸術の域へと高めるうえで中心的な役割を果たしてきました。中世の饗宴からヴェルサイユ宮殿の華麗なる晩餐までその変遷を振り返ってみましょう。

 

食卓の芸術 101

「食卓の芸術」とはそもそも何を指しているのでしょう?「食卓の芸術(Arts de la table)」とは、フランスにおける食事を取り巻くマナーやしきたり、デザインのすべてを指します。フランスのテーブルでまず思い浮かぶのは、最高級の磁器、クリスタルグラス、重厚な銀器、シャンデリア、刺繍入りのリネン、切り取ったばかりの生花で飾られた、目にも美しい饗宴です。フランスにおいて、食事とは単に食べ物を口に入れることではありません。それは文化的行為なのです。

 

手づかみの食事から優雅なルネッサンスへ

中世の王侯貴族の饗宴はとても豪勢なものでした。肉の丸焼きや香辛料を使ったソース、シナモンやサフランなどの輸入品を振る舞い、富を誇示したのです。まさに「豊かさこそ権力の証」という時代でした。道化師などによる余興も欠かせませんでした。しかし、フォークはまだ存在せず、客人は素手や短剣を使って食事をし、パンを皿代わりにしていました。豪華なリネンが使われていましたが、食事のマナーは粗野でした。

フランスに洗練された食文化が生まれたのは、ルネッサンス期、フランソワ1世の治世です。イタリアの宮廷文化が持ち込まれたのです。1515年に王位に就いたフランソワ1世は洗練されたセンスを持っており、フランス・ルネッサンス期が花開いたのです。まずは貴族階級から、フォークと椅子が徐々に広まり、素手の食事や長椅子に取って代わりました。グラス類は客同士で共有されることが多かったのです。フランス式の配膳方法も発達しました。すべての料理が一度に左右対称に並べられ、客人はそれを鑑賞し、自ら取り分けることができました。

© Rocking Stock

ヴェルサイユ宮殿と食卓儀礼の確立

食卓の芸術」を大きく変えたのは、「太陽王」と呼ばれたルイ14世です。ヴェルサイユ宮殿において、食事は正式な儀礼へと進化しました。ルイ14世の日々の食事、とりわけ「大膳式」と呼ばれた会食は、公開パフォーマンスでした。国王は貴族らに食事する様子を見せて、神から授けられたという権力を誇示したのです。

食器はもはや単なる実用品ではなく、威信の象徴となりました。フランスのクリスタルや磁器産業も盛んになりました。王室はセーヴル磁器製作所の創設を支援し、やがてそれは王室御用達の代名詞となりました。

 

会話の芸術

18世紀、ルイ15世とルイ16世の治世下で、フランスの食卓はより親密で知的な場となりました。宮廷の食事は単なるパフォーマンスではなく、優雅さと機知を披露する場となり、会話が重視されるようになりました。

マリー・アントワネット妃は、 ソフィア・コッポラ監督の映画でマカロン好きの王妃として印象づけられていますが、繊細な磁器や花をあしらったセンターピース、洗練されたメニューで、軽やかで芸術的な食卓のスタイルを確立しました。砂糖細工、香りのついたナプキン、テーマのあるテーブルセッティングは、自然や異国趣味、哲学が流行した啓蒙時代を反映したものでした。

1789年のフランス革命は、王室のきらびやかな生活に終止符を打ちました。主のいなくなったヴェルサイユ宮殿の厨房は閉ざされましたが、「食卓の芸術」は生き続けました。追放された料理人たちはパリの市中にレストランを開き、洗練された食事を一般に広めました。近代に入ると、それまでの「フランス式」に代わり「ロシア式」の食事のサービス方法が広まり、客は個別に料理を供され、出来立ての温かい料理を食べられるようになりました。食事を提供するための食器も一般的となり、現代のクリストフル(Christofle)シルバーウェアは、当時の銀細工職人の匠の技を今に伝えています。

19世紀にはブルジョワジーの台頭によって、食卓の芸術が上流中産階級の家庭にも広まりました。エチケットやテーブルセッティングの手引書が数多く出版されました。銀製のカトラリーやクリスタルグラス、揃いの磁器セットは、社会的地位の象徴となりました。

ナポレオン、その後のブルボン復古王政により、宮廷の伝統は一部復活しました。新たな食器や調度品の制作が依頼され、バカラサンルイなどのクリスタルブランドが近代における贅沢の象徴となりました。シャルル10世は、給仕役に会話が漏れ聞こえないよう、一人用のグラスを使うよう義務付けたと言われています。

 

現代:生き続ける伝統

現在のフランスは共和国ですが、「食卓の芸術」は今もフランス人のアイデンティティの基盤となっています。2010年、ユネスコは「フランス料理」を無形文化遺産に登録しました。これは料理だけでなく、そのしきたりやテーブルセッティング、そして食事を共に楽しむ精神をも含む、フランスの生活様式です。

現代の食卓でもフランス宮廷の遺産が息づいており、誰もが従う暗黙の作法が食事の流れを形作っています。詳しくはこちらをどうぞ。今日のフランス料理の定番はこの伝統に根ざしています。19世紀のブルジョワジーの洗練された食文化であるブッフ・ブルギニョンコック・オ・ヴァン、あるいは特別な行事の祝祭料理であるクリスマス牡蠣や、イースターの子羊のローストなどもそうです。また、フランスの食事はデザートなしでは完結しません。季節の定番であるタルト・タタンやクリームたっぷりのパリ・ブレストなど、甘いもので締めくくるのが中心となります。さらに詳しく知りたければ、フランスのデザートのセクション や、専門家によるフランス菓子についての記事を是非お読みください。最後に忘れてならないのが、飲み物です。これは専門家にまかせてください!シャンパーニュは今なお祝祭の国際的象徴ですが、正しくペアリングすれば、料理の素晴らしい伴侶となります。

現代の感覚では、旬の食材、地元の職人技、細部へのこだわりも、重要度が高いです。ガーデンランチででも、キャンドルの灯るロマンチックディナーでも、その目的は代わりません。それは、日常を格上げし、食卓を囲んで喜びを共に分かち合うことです。

Contributor

Valentine Benoist
Valentine Benoist

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