伝統、持続可能性、創造性を取り入れ、フランス料理の未来を形作る、2025年の旬のシェフについてご紹介します。トレンドの中心は、地産地消の食文化、プラントベース食材による革新、そして新たなテロワールの再発見です。
フランス料理といえば、何世紀にもわたって受け継がれてきた伝統的なソース、厳格な階級制度、洗練された高級料理の文化に根ざしています。しかし、その完璧なイメージの裏側では、フランス料理は今も生き続け、進化しています。国内各地で、新進気鋭のシェフたちが新たな地平を切り開いています。テロワールを大胆な発想と結びつけ、世界のトレンドを取り込み、持続可能性により広い意味を与えています。パリからマルセイユ、ノルマンディーからブルターニュへ — 挑戦的で多様、そして常に躍動し続けるフランス料理の世界へようこそ。
すべての道は厨房に通ず
昔は、フランスの厨房に入る道はほぼ一つ。ミシュラン星付きの名シェフの下で修行を積み、厳格な階級制度の下で一つ一つ階段を上がっていくしかありませんでした。しかし現在では、それ以外にも成功への道が開かれています。必ずしも老舗のレストランで修行をする必要もなくなりました。ソーシャルメディアやテレビ番組が、シェフをより身近で華やかな存在へと変えたのです。特に人気番組『トップシェフ』は、あらゆる社会的立場の人々に光を当てました。その好例が2024年の準決勝進出者、ヴァランタン・ラファリ。現在、マルセイユでリビングストンという店を開いています。そこはシェフ・イン・レジデンスが腕を振るうレストランとなり、多様な創造性を取り込みながら、ファッションや音楽界のトップクリエイターに愛されています。
パリで活躍するシェフ、クロエ・シャルルは、自らを「飛び回るような存在」と呼んでいます。環境団体Reductioでの廃棄物ゼロを掲げる活動や、明るく楽しい料理スタイルで知られています。2012年の『トップシェフ』に出演した経歴を持ち、ゲスト一人ひとりに合わせたダイニング体験を提供しています。自身のプライベート空間Lagoや各種イベントではセヴェンヌ産スイート・オニオンにクルミ、シイタケ、スカモルツァチーズを合わせた料理や、フランスの定番料理ブランケットをベジタリアン食にアレンジした料理が食べられます。
正統な料理界での地位も、伝統的な修行を積んだシェフと独学で学んだ才能ある人材の間で均衡しています。 ノルマンディーのレストランオーベルジュ・ソヴァージュのシェフオーナー、トマス・ブナディも過去に経営した2軒の店で技を磨き、本格的な美食レストランへと発展させました。古い司祭館を改装したその店で、ブナディはマンシュ産ホタテ貝やショゼー諸島産ブーケ海老など、モン・サン・ミシェル湾のテロワールを映し出す本能的で自然に導かれた料理を次々と生み出しています。持続可能性に根ざしたアプローチで、野生植物や自家菜園、自家製の基本食材を重視しています。2020年にパートナーのジェシカ・シャインとともに開業したこの店は、フランスで最も評価の高い地産地消レストランの一つとなっています。
「ローカル」を超えて:より幅広いサステナビリティへ
この新世代のシェフたちは、議論の幅を広げました。彼らにとって、持続可能性とは、単なるラベル認証を超えたテーマです。具体的には、厨房における倫理を見直し、食との関係を再考し、より健康的で公正な職場環境を作り出すことも重視しています。
マノン・フルーリーとロレーヌ・バルジューがパリで営むレストランDatilでは、メニュー作りと同じくらいの熱意で、レストランのエコシステム全体に取り組んでいます。2人の女性シェフは、従業員から生産者、ワイナリー、職人などの人々を中心にした新たな組織モデルを提唱しており、「料理を知的な仕事として捉え、政治的な意味を持たせること」を目指しています。
サプライチェーンそのものにより注目するシェフもいます。マルセイユの肉料理専門店La Femme du Boucherでは、肉のトレーサビリティを実現すべく、畜産農家と直接提携しています。シェフのラエティティア・ヴィスは、自身のシャルキュトリーで評判が高く、特に有名なパテ・アン・クルートは絶品です。パティシェでは、パリ近郊のクレール・エイッツレーが、優れた生産者と連携し、季節のフランス菓子の魅力を発信しています。そのスイーツには、オクシタニアのアグリュム・シャラーが生産した有機かんきつ類、ロワール地方の直売生産者「アン・ディレクト・デ・ゼレヴール」によるクレーム・フレーシュ、カマルグ産フルール・ド・セルといった最高峰の食材の魅力がつまっています。
こうした取り組みは、「サステナブル・ガストロノミー」という概念がますます広がっていることを示しています。
地域と文化が組み合わされ、混ざり合う
この新たな動きは、地域色豊かで実に多彩です。リールでは、人気シェフのフローラン・ラデンが、マロワールチーズやチコリなど、北フランスの食材と風景に根ざした料理を展開しています。ブルターニュでは、ユーゴとマリーヌ・ロランジェが、家族から受け継いた名店、Maisons de Bricourtで、豊かな海のテロワールである「メロワール」を重視する、新たな世界を切り開いています。
フランスは、伝統と革新が交わる実験の場となっています。マルセイユのレストラン、Ave Racineでは、野菜を素材に植物由来のシャルキュトリーを作っています。
その一方で、フランス料理の伝統を再解釈することで、新しいエネルギーを吹き込んでいるレストランや料理人もいます。レストランを経営するアリス・トゥエットは、Daimant Collectiveグループを通じて、ヴィーガンの視点からビストロ料理を再定義しています。また、「真心のこもった中国料理店」Bao Familyグループも進化を遂げています。フランス産の有機小麦粉や肉など厳選された食材を使い、事業展開してきましたが、現在ではタイ料理チェーン「ストリート・バンコク」を買収し、事業領域を広げています。こうした新しいタイプの文化的フュージョンは、形式こそグローバルですが、食材の調達はしっかりとフランスに根ざしています。
フランスの美食文化は、決して立ち止まってはいません。それは、伝統を重視しながら変化を受け入れるシェフたちによって、前進を続けています。彼らの厨房では、テロワールと創造性、伝統と文化的融合、そしてサステナビリティが共存しています。旅人にとってそれが意味すること。それは、現在のフランスで食事をする時、必ず新たな驚きが待っているということです。
Contributor
エディター