注目のフランス土着品種

By 岩田 渉

唐突ですが、「10,000」というこの数字、そして「6,000」、「13」、「33」と、これらの数字が何を表しているか、お分かりでしょうか?おそらく多くの方々はこの数字に対して特に特別な意味というのを抱いてはいないと思います。実はこれらの数字というのは、ブドウ品種を表している数字なのです。

まずは最初の「10,000」という数字。これは世界には10,000種以上のブドウ品種が存在すると言われております。また次の「6,000」というのは、ワイン造りに使用される、いわゆる「ヴィティス・ヴィニフェラ」(欧・中東系種)の数を指しております。こうみると、かなり多くの品種がこのワイン用ブドウですね。そして「13」と「33」という数字。前者の数はそのヴィティス・ヴィニフェラの全栽培面積の1/3を占める品種の数を表し、後者の33は1/2の栽培面積を占める品種数と言われております。こうしてみると、メルロートルやシャルドネというような、いわゆる高貴品種(Noble Variety)が栽培面積の大多数を占めております。その他もちろん、ピノ・ノワールやカベルネ・ソーヴィニョン、ソーヴィニョン・ブランやリースリングといったフランスを代表するブドウ品種が世界中で活躍しているのは言うまでもありませんが、今回はその中でもそういった大舞台で活躍する品種ではなく、その土地でしか見られない個性豊かな「土着品種」について紹介していきます。

 土着品種の歴史を見ていくと、フィロキセラの影響や原産地統制名称制度などによって、多くの品種が失われてしまったと、言われております。いくつかの品種は、多産型で無いために引き抜かれてしまったり、またいくつかの品種はA.O.C.の規定から外れてしまい、注目されなくなり、自然と淘汰されたり、様々な背景がありました。その中で、なぜ今になってそれらの品種が注目されているかというと、新世代のワインメーカーや、消費者たちがそのかけがえのない歴史や伝統に改めて注目したことが挙げられます。また、気候変動も土着品種が改めて注目されることになった要因の1つです。例えばシャンパーニュ地方。栽培される主な品種というのはシャルドネやピノ・ノワール、そしてピノ・ムニエが代表的な品種として挙げられますが、その中でも近年はArbane(アルバン)という品種やPetit Meslier(プティ・メリエ)と呼ばれる品種に、いくつかの大手のメゾンが注目しています。それらの品種は昔からシャンパーニュ地方には植えられていましたが、マイナー品種ということで、シャルドネなどの影に潜めておりましたが、それらの2つの品種は高い酸を保持しやすいという品種的特徴があるために、今後温暖化が進んでいく未来を予想し、将来的にも活躍するポテンシャルがあるとして、注目されているのです。

 このように、文化的な背景や気候変動などによって、再び活躍する舞台に上がった土着品種たち。その中でも、特筆するべき特徴を持つようなブドウ品種を紹介したいと思います。

 まず1つ目がPetit Manseng(プティ・マンサン)です。南西地方を代表するブドウ品種ですが、特にA.O.C. Jurançon(ジュランソン)で多く栽培されている品種です。甘口ワインにも使用される品種ですが、その特徴は何と言っても、ブドウが完熟したとしても、酸度が落ちにくいというところにあります。基本的にブドウは熟すと糖度が上がっていき、自然と酸度が落ちていくという生理現象が見られますが、このプティ・マンサンはブドウが完熟した状態であってもその生き生きとした酸を保つことで、優美な甘さと滑らかでフレッシュな酸が共存した素晴らしい甘口のワインを造るのです。近年では我が国日本でもその栽培を見ることができ、そのブドウが持つユニークな特徴が非常に注目を集めております。

 またプロヴァンスで栽培されるTibouren(ティブレン)と呼ばれる品種も私が個人的に大好きな品種の1つです。イタリアのリグーリア地方でも栽培されRossese(ロッセーゼ)と呼ばれています。この黒ブドウが造るロゼワイン、そして赤ワインの繊細さ、そしてその上品な味わいは他のブドウ品種ではなかなか体現することができないような「気品」を持ち合わせています。香りも表現力豊かで、ガリッグのようなハーブやバラのような芳香、そして土っぽいアーシーな雰囲気があるなど、プロヴァンスのロゼワインではブレンドに使用されたり、一部の生産者ではその熟成のポテンシャルを評価し、単一でワインを造ることなどもあります。

 今回紹介させていただいた品種というのは本当にごく僅かです。フランスは高貴なブドウ品種で有名ですが、こういったユニークな土着品種の宝庫でもあります。「土着品種」が世界的に注目を浴びる今、多くの多様性を持つユニークな土着品種が織りなす、フランスワインの伝統と文化を改めて飲んで感じていただきたいと思います。

Contributor

M.IWATA_FINAL
岩田 渉

ソムリエ

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