フランス好きなら誰もが訪ねてみたくなる、気取らない心地よさ
JR目黒駅から坂を下り、目黒川を越えた閑静で落ち着いたエリア。繁華街からは少し離れていますが、個性的なレストランがぽつりぽつりと見つかる、穴場なエリアかもしれません。ビストロエガリテは2013年に駒場東大にオープンし、2022年より目黒の地へ移転しました。階段を上がった2階の扉を開けると、赤いソファとニュアンスのあるグリーンの壁が印象的な店内は、ちょっぴりフランス映画のような雰囲気です。
© ビストロエガリテ店内の様子
シェフの田中勇一さんは熊本出身。高校生の頃は飲食店でアルバイトをしながら、「料理天国」というテレビ番組に影響を受け、料理人に憧れたそうです。福岡の料理専門学校で学び、フランス料理に目覚めました。卒業後は〈キャトルサンク高松〉、〈ジャン・ムーラン神戸〉にて修業後、フランスへ渡ります。
「フランスには行ってみたいと思っていました。やはり現地へ行かないと分からないことがありますから。パリの星付きレストランは既に日本人が多くいましたので、誰もいないところへ行こうと思って、最初はブルターニュの1つ星〈オーベルジュ・グランメゾン〉で修行しました。当時はまだ携帯電話もなく、言葉にはすごく苦労しましたが、町に日本人は私一人くらいしかいなかったので、みなさん興味津々で気さくに声をかけてくれたりして、だんだんと馴染んでいきました」
その後はカンヌの2つ星〈ホテルルジュアナ、ラ・テラス〉でも修行し、フランスに3年滞在して帰国。五反田〈ヌキテパ〉、代官山〈プティ・ブドン〉、〈プティ・トノー虎ノ門店〉で料理長を努めた後、ビストロエガリテをオープンしました。
© シェフの田中勇一さん
フランスに来て特にびっくりしたのは、パンとバターの美味しさだという田中さん。「パンは一番衝撃的でした。小麦本来の味わいがして、なんでこんなにうまいんだろうと驚きました。素材の質が全然違います。ブルターニュはバターも上質なものが多く、みなさん料理にたっぷり使うんですよね。日本ではできない贅沢さです」
また、田中さんにとっては初めてのフランスでもあったので、フランス人の様々な感覚の違いにもショックを受けたと言います。
「フランスでは料理人は高く評価されている職業であり、シェフは人間的にも尊敬できる職人気質で仕事もきっちり、厨房はいつもピカピカに綺麗でした。握手をする手がガシッと力強い。もちろん怖い人もいましたが、彼らの発想、料理の組み合わせ方など、まだ未熟だった自分の考える範疇を超えていて、大変勉強になりました。見るもの全てが新しく、大いに刺激を受けました」
一方で、田中さんが日本文化を伝えた思い出も。例えば当時は日本の包丁は珍しく、フランスでは包丁を研ぐ習慣がなかったため、田中さんが他のシェフの包丁を砥石で研いであげたり、研ぎ方を教えたりなど、文化交流したこともあったそうです。
© レンズ豆のポタージュ。ほっくりとした豆の優しいうまみが口の中にじんわり広がる
店名のエガリテとは、フランス語で“平等”、“対等”などを意味する言葉。
「まずは覚えやすい、呼びやすいフランス語にしたいと思いました。オープン当時はフレンチといえばやや格調の高い、本格的な高級レストランしかなかったんです。自分はもっと親しみやすく、気軽に誰でも訪ねやすいレストランを作りたいと思いました」
実は店名の由来について、田中さんと一緒に店を盛り上げるパートナーの柴田泰枝さんに素敵なエピソードを聞いたのでご紹介します。柴田さんもフランスに住んでいたことがあるそうで、現地で友達とマルシェをやることがありました。日本のものも、フランスのものも、色んなものをごちゃ混ぜに販売していたそう。その時、友達がこの名前を思い付いたそうです。
「名前の意味には、国籍、性別、年齢など関係なく、どんな人でもみんな一緒に、という想いがあって、すごくいいなと思っていました。この店でも、どんな人にもおいしいものを届けたい、等しく幸せになってもらいたい、という願いを込めて付けることにしました」
© フランス南西部ラングドック地方の郷土料理、カスレ。ボリュームたっぷり!
ビストロエガリテには、長く何度も来店しているお客様が多くいます。店でプロポーズしたカップルのお客様にお子さんができたとか、小学生の頃から家族で来ていたお客様が大学生になって、今は店でアルバイトをしているとか、ほっこりするようなエピソードがたくさんあって、多くの人に愛されていることを感じさせます。
そんなビストロエガリテの料理は、田中さんのフランスへの想いが反映されたような一皿です。店のテーマは「テーブルの上でフランスの旅を」。各地の伝統的な郷土料理は、しみじみと身体に染み渡る滋味深さがあり、ほっと心が和らぐ味わい。フランスを訪れたことのある人なら、旅の風景が思い出され、どこか情緒的で懐かしい気持ちになるかもしれません。
© フランス人が大好きなルバーブを使ったタルト(期間限定で、季節によって様々なフルーツを使用)
田中さんは日本各地の生産者と繋がりがあり、こだわりを持って生産された地域の食材を大切にしています。また、チーズやワインはもちろん、野菜、乾物、調味料など、フランス産の食材も多く使用しています。
「マスタードやビネガーなどはフランス産を愛用しています。緑のレンズ豆や白インゲン豆など、豆類も使っています。他とは味や食感が違うんですよ。それから鴨、うさぎ、乳飲みの子ヤギなど、日本では手に入りにくい畜産物を使うこともあります。フランスらしい味わいを表現するために、フランス産の食材は料理にバランス良く馴染みやすいですし、味の決め手になることも多いですね。」
フランスの食の魅力を広く楽しく伝えるために、毎月様々なイベントも開催しています。各地方の特産物や郷土料理をテーマにしたり、チーズにフィーチャーしたり、フードジャーナリストさんと一緒に映画の中の料理について解説したり。時には料理の作り方をイベントの様子と共にYouTubeで配信し、本格的ながら誰でも簡単に作れるレシピを公開するなど、ユニークな企画を次々と生み出しています。人とのご縁がきっかけで生まれたイベントも多いそうで、フランス好きはもちろん、旅や食の好きな人達が自然と集まってくるような、和やかで温かい空気が流れている、とっておきの店です。