「都内で楽しむ、フランスの美味しい時間」 ~本場の味を伝える、香り豊かなパン~

By 江澤 香織

東京には魅力的で最先端なフレンチテイストが盛りだくさん!今回は、本場フランスのパンのおいしさに魅了され、現地で腕を磨いたパン職人が営む、「ブーランジュリー ボネダンヌ」をご紹介します。 

Boulangerie BONNET D'ANE main image

日常の暮らしの中で楽しむ、フランス伝統の奥深い味わい 

静かな住宅街の一角。東急田園都市線の三軒茶屋駅からも池尻大橋駅からも徒歩15分弱歩いたところに店があります。世田谷区といえばパン屋さん激選区であり、ここは決してアクセスが良いとは言えない場所にあるにも関わらず、次から次へとひっきりなしにお客さんが訪れています。人が5人も入ればいっぱいになるこぢんまりとした店内はパンの焼けるいい匂いで満たされ、バゲット、クロワッサン、パンオショコラ、ショソンオポムなどなど、日々の日常に食べたいようなフランスのトラディショナルなパンたちが、おいしそうな顔をしてほのぼのと並んでいます。 

 店内に入ってさらに心ときめくのは、まるでパリの古い街角にでもありそうな、素朴でノスタルジックなインテリア。シャンデリアや木の戸棚は、店主であるシェフの荻原浩さんが自らフランスのフリーマーケットなどで探してきたものだそうです。床に敷き詰められた青いタイルは、実は日本の美濃焼とのことですが、レトロでクラシカルなデザインが店の雰囲気にぴったりマッチしています。 

荻原さんはレストランで働いていた20代の頃、そこのケーキのおいしさに魅了され、パティシエ修行を始めました。やがて本場で学びたいとフランスへ渡ります。1年半の修行の後、1度日本へ戻って洋菓子店で働くも、30歳を前に2度目の渡仏をし、今度はパンのおいしさに夢中になります。 

「今まではそれほどパン好きではなかったんです。でもフランスで食べてみて、パンってこんなにおいしいのかと感動しました。昔ながらの伝統的なパンが好きで、旨みの奥深さが違うと感じます。そこからフランスの歴史や食文化にもすごく興味を持ちました」 

 

フランス人の知り合いに紹介してもらい、今度はパン屋さんでの修行を始めます。パンはフランス人にとって日常に欠かせないもの。パンを学ぶことで、フランスの暮らしにより深く入り込み、彼らの文化を体感することができたと荻原さんは語ります。 

「毎日食べているものだから、お客さんもパンにとても詳しい人が多いんですよね。おいしいパンとは何かをよく知っていらっしゃる。お客さんから学ぶことが多々ありました。だから、おいしかったよと言われると素直に嬉しかったですし、お客さんに育ててもらったと思っています」 

フランスではトータル5年の修行を経て、2013年にこの店をオープンしました。 

荻原さんが思うおいしいパンとは、香りがよく、旨みの深いパン。フランスで学んだ伝統的な技法をベースに、手間暇惜しまず必要なところにしっかり時間をかけて丁寧に焼き上げることを大切にしています。フランス産の小麦を使っていることもこだわりのひとつで、香りの良さとポテンシャルが違う、と荻原さんは言います。一口かじると豊かな粉の風味がふわっと口の中に広がり、ハッと驚くほど。素材の持つ力を感じます。 

フランスの小麦はシーズンを通して確かな技術で丁寧に品質管理がされており、パン作りに適した、高純度で高品質の小麦粉を製造しています。 

 おいしそうなパンばかりが並んでいて目移りしますが、特に人気が高いのは、出来立てのバゲットサンドやタルティーヌ。 

「パンは切るとどうしても劣化が始まります。パンを香り良く一番いい状態で食べていただきたいので、少しお時間はいただきますが、注文を受けてから、その場で切って具材を挟み、出来立てを作って提供しています」。 

写真はハムとチーズを挟んだシンプルなサンドイッチと、バターをたっぷりのせたフランボワーズのタルティーヌ。どちらも日常のフランスらしさを彷彿させ、ずっと噛み締めていたいような、素材そのものの良さが生きています。 

店の一角には焼き菓子もたくさん並んでいます。元々はパティシエを目指していた荻原さんなので、お菓子も見逃せません。ここでは“パン屋のお菓子”といわれる、クッキーやメレンゲ、チョコレートテリーヌ、マドレーヌなどの焼き菓子があります。シンプルで気をてらっていない、しみじみと素朴な味わいで、毎日食べても飽きのこないお菓子です。 

「フランス人って、パティスリーのお菓子はハレの日のちょっと特別なもので、普段はパン屋さんでお菓子を買うことが多いんです。そんなフランスの日常の味を表現したいと思いました」 

店名の「ボネダンヌ」とは、フランス語で「ロバの耳の帽子」という意味。“王様の耳はロバの耳”なんていうイソップ童話がありましたが、ロバにはどこかお茶目でとぼけた可愛らしいイメージがあります。フランスでは昔、学校で子供が悪いことをすると、罰としてロバの耳の帽子を被って立たされたんだとか。 

「そんな様子を想像してみると、なんとも穏やかでのんびりした古き良き時代だなあと、愛おしさを感じて店名にしました。自分たちも、フランスの人たちに昔からずっと愛されてきたようなシンプルで飾らないパンを作って、フランスの日常の文化を伝えていきたいと思っています」 

ブーランジュリーから徒歩数分のところには、2023年にLa CREPERIE BONNET D'ANE(ラ クレープリー ボネダンヌ)もオープンしました。 

「フランスでは2月2日にクレープの日、ラ・シャンドレール(La Chandeleur)という風習があります。キリスト教の行事のひとつで、家族や友人たちとクレープを食べてお祝いします。僕が働いていたパリのパン屋さんでも、この日になると、子供たちが嬉しそうにクレープを買いに来るんですよね。楽しくて良いイベントだなあと思って、そんな思い出にちなんで店を作りました」 

シンプルなバターシュガーから、フルーツ、チョコレート、季節の限定メニューなど。小腹を満たしてくれる、チーズやツナなどが入った惣菜系クレープもあります。もちろん1枚1枚焼きたてで提供しています。 

荻原さんは長野県出身。いつかは自然と共に暮らしながら、きれいな水と空気の中でのびのびとパンを焼いてみたい、と語ります。フランスへの深い愛情と敬意、日常の暮らしを大切に、コツコツ丁寧に作る、荻原さんのひたむきな姿勢が滲み出ているような、味わい深いパン。お散歩を楽しみながら、ぜひ訪ねてみて下さい。 

 

Boulangerie BONNET D'ANE(ブーランジュリー ボネダンヌ)

東京都世田谷区三宿1-28-1 

Tel 03-6805-5848 

Contributor

Ezawa Kaori
江澤 香織

ライター、旅、食、クラフトなどを中心に執筆

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