ロワールのオーガニックワインとビオディナミワイン

By 岩田 渉

ロワール渓谷はこの地方の気候と支流が肥沃な土壌をもたらし庭園造りが盛んに行われるようになったことから、「フランスの庭」とも言われています。
美しいシャトーと庭園が建ち並ぶ風光明媚なロワール地方は、その豊かな自然とともに育まれる多数のオーガニックワイン、そしてビオディナミワインのフランス国内屈指の産地です。自然の力を信じる多くの生産者が人為的介入を極力避けてワインづくりに励んでいます。今回はそれらのワインが通常のワインとどう違うのか、解説します。

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ロワール渓谷はこの地方の気候と支流が肥沃な土壌をもたらし庭園造りが盛んに行われるようになったことから、「フランスの庭」とも言われています。
美しいシャトーと庭園が建ち並ぶ風光明媚なロワール地方は、その豊かな自然とともに育まれる多数のオーガニックワイン、そしてビオディナミワインのフランス国内屈指の産地です。自然の力を信じる多くの生産者が人為的介入を極力避けてワインづくりに励んでいます。今回はそれらのワインが通常のワインとどう違うのか、解説させていただきます。

フランスでも北西に位置するロワール地方の気候はオーガニックやビオディナミワインの生産者からすると少しチャレンジングです。フランスの他の産地の暖かく乾燥した気候に比べるとカビや病害などのリスクも上がり、そのフィロソフィーを持ちながら、健全なブドウを育てるということはかなり難しいと言わざるをえません。

では、なぜこれほど多くの造り手がこのフィロソフィーを実践するのでしょうか?ロワール地方の有名な生産者4人のケースを見てみましょう。

 

殺虫剤を使わないぶどう栽培

まず背景として、シノンのBeatrice et Pascal Lambert (ベアトリス・エ・パスカル・ランベール)の存在があります。20年以上前からワイン造りをはじめ、少しずつ無農薬農法に切り替え、2008年からは100%ビオディナミに移行しました。土壌に化学肥料を一切使用せず、特別な堆肥を使用し、丁寧な剪定、100%手摘みの収穫など、ぶどうは自然な状態で成長します。彼らが中心に活躍することで、ロワール地方の若手の造り手たちもドメーヌでの直接指導や研修など十分なサポートを得られます。

新たにこの地でワイン造りに参入した若い造り手と共に、現在もこの地で昔から一貫して環境に最大限配慮したフィロソフィーを持ちながらワインを造り続けている代表的な生産者の一人がVouvray(ヴーヴレ)の「Domaine Huet(ドメーヌ・ユエ)」です。元々自然を尊重する生産者でありましたが、1988年には全ての畑でビオディナミを導入するなど、パイオニアの一人でもあります。

彼らも、ワイン醸造に関しては一貫して人為的介入を避けるという精神を貫いております。AOC Vouvrayという甘口から辛口までのワインを造ることができるアペラシオンで、全て自然の酵母でワインを発酵させているので、年によって甘口になるワインもあれば、辛口になるワインもあり、その年の畑の状態と天候がもたらすブドウの個性が全面的に出るワインとなります。もちろんシャプタリザシオン(加糖)も一切行わないので、より鮮明に本来のテロワールやヴィンテージの個性がワインに現れるのです。

 

自然の味わい

ドメーヌ・ユエのブドウにはSO2 (二酸化硫黄)が使用されていません。SO2とは亜硫酸塩(二酸化硫黄)のことを指し、ワインの酸化を防ぎそして望ましくない微生物を殺菌します。ワインだけでなく、食品の品質と安全を守るための必要不可欠な添加物で、このおかげでワインは遠い国々までの輸出に耐え多くの人に楽しんでもらうことができます。ドメーヌ・ユエでは、SO2がなくても、たゆまぬ土壌作りにより自然酵母の使用を可能にしています。良好なワイン生産、化学添加物不使用遵守のために、ブドウの樹は最大限注意深く管理されています。このさらなる努力によりこのドメーヌは安定した生産を確保しているのです。

ワインに使用するSO2の添加量にはもちろん制限があり、我々の人体に影響がないレベルでの使用が規定されています。ワインの安定を求める一方でSO2に頼り過ぎてしまうと、各々の畑が持つ個性が失われ、画一化されたワインしかできないと危惧する生産者も多いのです。

Muscadet(ミュスカデ)の代表的な造り手であるDomaine de l’Ecu(ドメーヌ・ド・レキュ)も二酸化硫黄の添加は極力避けている生産者の一人です。テロワールの尊重を訴えているからこそ、化学物質に頼ることなく、魂のこもったワイン造りをしております。彼らのワインも透明感にあふれ、それぞれのテロワールを純粋にワインに反映するとともに、独特なエネルギーに満ち溢れており、唯一無二のMuscadet(ミュスカデ)を生み出しております。ワインには地域の特徴である白い果実の香りや、軽く繊細でミネラル感のある苦味が感じられます。 ドメーヌ・ド・レキュでは、それぞれのキュヴェがそれぞれのユニークさを持っています。

 

本物の比類なきテロワール

Saumur(ソーミュール)でDomaine des Roches Neuves(ドメーヌ・デ・ロシュ・ヌーヴ)を運営しているThierry Germain(ティエリー・ジェルマン)がアンフォラで生産した琥珀色のワインも刺激的です。土壌は本当に生き生きとエネルギーに満ち溢れ、そのエネルギーをブドウの樹がしっかりと吸収しています。ティエリー・ジェルマンは、ビオディナミ農法実践の上で、技術的な作業によりワインの生き生きした側面を覆い隠してしまいたくないと考えています。彼は果実そのものとテロワールを大切にしているのです。このような驚くべきワインをロワール地方ではたくさん見つけることができます。

ロワール地方は、現在注目の的になっている地域です。非常に多様なスタイルのワインが生産され、また若いワイン生産者や他業種から転向したワイン生産者も出てきています。
自然を尊重して生産されたオーガニックワインやビオディナミワインを飲んで、比類なきテロワールの多様性を味わってください。

Contributor

M.IWATA_FINAL
岩田 渉

ソムリエ

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