ブイヨン:パリの伝統を受け継ぐリーズナブルな大衆食堂
ブイヨンは19世紀に、パリの労働者階級の「食堂」として生まれました。目指したのは、栄養たっぷりで家庭的な料理を格安で提供することでした。ちなみに「ブイヨン」とはフランス語「だし」や「スープ」のこと。手作りの素朴な伝統料理を彷彿とさせる名前です。
20世紀には人気が衰えましたが、最近ではフランス美食界で再び注目を集め、ブイヨン・シャルティエやブイヨン・ピガール、ブラッスリー・デュビヨといったパリの有名店が話題になっています。メニューはウッフマヨネーズやブランケット・ド・ヴォー(仔牛のクリーム煮)、ポワローのヴィネグレットソースかけといった昔ながらのボリュームたっぷりな定番料理が中心。食材もシャロレー牛やAOP ル・ピュイ産緑レンズ豆といったフランス各地の特産品を使用しています。
予約は不要で、相席の長テーブルが並び、制服を着た給仕が接客する店内はオーセンティックなスタイル。新生ブイヨンでは、フランス伝統の味を手頃な価格で和気あいあいと楽しめますが、クオリティにも妥協はありません。
ブション:リヨン料理の真髄
フランスを代表する美食の街として知られるリヨン。その食文化を象徴する大人気の店がブションです。もともとは工場労働者向けの食堂でしたが、今では気取らず居心地の良い店内で、リヨンならではの本格的でボリュームのある料理が楽しめます。
ただし、ほとんどのブションはベジタリアン向きではありませんので、ご注意ください。メニューはシャルキュトリーや肉料理が中心で、地元の定番料理にはアンドゥイエットやカワカマスのクネル、ソーシソン・ブリオッシュ、タブリエ・ド・サプールなどがあります。こうした料理に合わせて、たいていの店ではローヌ渓谷のバラエティ豊かなワインリストも用意されています。締めには、リヨン名物のハーブ入りチーズ、セルヴェル・ド・カニュをどうぞ。
このような伝統的な食文化を守るため、リヨン市は「Authentique Bouchon Lyonnais(オーセンティック・ブション・リヨネ)」という認定制度を設けました。この認定を受けられるのは、昔ながらのレシピで地元の食材を生かし、チェックのテーブルクロスや心地良い音楽で活気あふれる雰囲気を演出している店だけです。
エスタミネ:フランドル地方にルーツを持つ、北フランスの居酒屋
北フランスにもエスタミネと呼ばれる昔ながらの食堂があります。フランスとベルギーの料理が融合したタヴァン(居酒屋)で、もともとはレストランというより人が集まる場所でした。
エスタミネでは、地元の人々がビールを飲み、カードゲームに興じ、素朴でボリュームのある料理を楽しみます。代表的な郷土料理には、カルボナード・フラマンド(牛肉のビール煮込み)やポッチュヴレエシュ(肉の冷製テリーヌ)、地元のチーズと卵を乗せたウェルシュ・ラビットなどがあります。
多くのエスタミネは地元の農家や生産者から仕入れた素材にこだわり、地産地消を推進する食文化の守り手になっています。
ビストロ:フランスが誇るタイムレスなアイコン
フランス主要都市の写真や映像を見ると、広いテラス席と昔ながらの雰囲気を持つ、似たようなレストランが歩道沿いに並んでいます。それが「ビストロ」。フランス料理界を代表するレストランです。
もともとは簡単な料理を提供する小さなカフェでしたが、手書きのメニューや旬の食材を生かした料理が地元で人気を博し、カジュアルな店から高級店までさまざまなビストロが生まれました。
タルタルステーキやブッフブルギニョン、タルト・タタンといった定番のフランス料理はもちろん、地域によってはバスク風ピペラードやブルターニュ風ガレット、プロヴァンス風ラタトゥイユなども味わえます。
現在フランス全土に広がっている「ネオ・ビストロ」ブームでは、オーガニック野菜やナチュラルワイン、倫理的に適切な環境で生産された肉を生かし、フランス料理のテクニックを駆使してワンランク上の美食体験を追求しています。農家や職人との直接契約を結び、トレーサビリティと味にこだわる店も少なくありません。
地域色豊かなフランス食文化の守り手
モンマルトルのブイヨンも、リヨン旧市街のブションも、単なる食事処ではありません。こうした飲食店はフランス各地の地域性を体現する存在であり、現地の風土に根差した昔ながらの美味を堪能できる場所なのです。
一皿一皿を支えているのは、小規模生産者のネットワークや伝統を守る職人たち、そして昔ながらのレシピ。そのすべてが相まって、フランスが誇る唯一無二の食文化を守っています。
ボナペティ!