フランス菓子は、卓越した職人技の象徴であり、熟練のパティシエが代々受け継いできた伝統の結晶でもあります。長年にわたり、フランス菓子はその芸術性、リッチな食感、上品な風味で他と一線を画した存在感を発揮してきました。/// ラ・グランド・エピスリー・ド・パリでヘッドパティシエを務めるシャルロット・トゥボーがその奥深い秘密を解き明かします。
人々を魅了し、好奇心をそそり、インスピレーションをかき立てるフランス菓子の人気は国内にとどまりません。いまや世界中で模倣されていますが、その卓越性は他の追随を許しません。専門知識、精緻な技、そして極上の食材に裏打ちされているからです。
「フランス菓子はある種の象徴であり、料理文化そのもの。世界中で賞賛や憧れの的となり、模倣される存在です」とシャルロット・トゥボーは力説します。ラ・グランド・エピスリー・ド・パリでヘッドパティシエを務める彼女が、フレンチデセールならではの強みだと考えているのは、古来の豊かで華やかな料理文化に根差した「精緻を極めた職人技」と「比類のない品質の食材」です。
このような卓越性の基盤や柱となるのが、使用する原材料。その品質がすべてを左右します。「AOPバター*、クレーム・フレッシュ、牧草を食べて育った牛の全乳、地元産の小麦粉といった多様な産物は単なる素材というより、むしろ風味豊かなフランス菓子の伝統を支える礎です」とシャルロット・トゥボーは語ります。中でも中心的な役割を果たしているのはバターとクリームだと彼女は考えています。風味を引き立て、リッチなコクや繊細な味わいをもたらし、フレンチデセールらしいまろやかな食感を演出してくれるのです。

バターはフランス菓子に欠かせない存在
酪農王国フランスが高級パティスリーの中心地として確固たる地位を築いているのは、偶然ではありません。「ポワトゥ=シャラント産バター、イズニー産クレーム・フレッシュ、フランスアルプス地方産の牛乳といった極上の食材のおかげで、パティシエたちが持ち前の才能を存分に発揮できます」とトゥボーは言います。「こうした食材を巧みに生かすことで、驚くほど深みのある風味が生まれ、フランス菓子らしい個性が際立ちます」
もちろん、フランス菓子を語るうえで外せない食材の1つがバターです。さまざまなレシピにバターが使われているのは、偶然ではありません。「上質な脂質がなければ、本当においしい菓子は作れません」とトゥボーは強調します。実際、バターは風味をもたらすだけでなく、製菓技術の面でも替えの利かない役割を担っています。「バターは独特の食感や風味をもたらし、パイやタルト、ショートブレッドをサクサクに仕上げるためにも欠かせません。 その最たる例がクロワッサンです。あの幾重にも重なる繊細な層が生み出せるのは上質なバターのおかげ。たとえ世界最高峰の技術を持ってしても、低品質のバターでは実現できません」
多彩なフランス菓子の世界
地域色豊かな多様性もフランス菓子の魅力です。フランス各地には、地元の気候、伝統、資源を生かした郷土菓子があります。シャルロット・トゥボーは次のように語っています。「現地の気候や食文化はフランス菓子に多大な影響を与えています。北部ではバターが主役で、タルト・オ・シュクルやブルターニュ地方のクイニーアマンやなどが有名です。一方、南部ではバターの使用量はそれほど多くなく、オリーブオイルや果物を多用します。 温暖な気候なので、タルト・トロペジェンヌやナヴェット(プロヴァンスのビスケット)といった軽い菓子も好まれます」
フランス菓子はこのようにバラエティに富んでいるため、現代パティスリー界のスターを選ぶのは簡単ではありません。それでもシャルロット・トゥボーは大物の名前を次々に挙げてくれました。「ピエール・エルメ、クレール・エイッツレー、ピエール・マルコリーニ、ジェシカ・プレアルパト、フィリップ・コンティチーニ、マキシム・フレデリック、ニーナ・メタイエ、レアンドル・ヴィヴィエ、クリストフ・ミシャラク、クリステル・ブリュア、そしてシリル・リニャック」 こうした面々は、今もなお進化を続けるフランス菓子の底力を体現する存在です。

伝統と革新を融合させたフランス菓子
伝統とは変化に抗うことではありません。むしろその逆です。「伝統と革新は常に調和し、共存してきました」とシャルロット・トゥボーは言います。その秘訣は、古き良きものと新しいものの完璧なバランスを見つけることにあります。「パティスリーの技は、昔ながらの技術や伝統を受け継ぐという考え方に根差していますが、現代性の中に自由を見出し、最新の技法や斬新なプレゼンテーションも取り入れています」 このような過去を尊重する姿勢は、新たなニーズへの柔軟な対応を妨げるものではありません。最近では、糖分控えめで軽やかなデザートへの関心が高まっています。
要するに、フランス菓子は常に進化を続けており、シャルロット・トゥボーに言わせれば、その進化こそが卓越性の源なのです。

聞きたくても聞けなかったフランス菓子の豆知識
最初に試すべきフランス菓子3選は何ですか?
パリ・ブレスト:シュー生地にプラリネクリームを詰めた菓子で、同名の自転車レースの開催を記念して作られた
ミルフィーユ:何層にも重なるサクサクとしたパイ生地にバニラクリームを挟んだ、フランスの定番パティスリー

タルト・タタン:キャラメリゼしたリンゴがショートクラストと溶け合う、「逆さまのタルト」とも呼ばれる代表的なフランス菓子
おいしいフランス菓子を選ぶ際のポイントは?
パリの有名店、小さな村のケーキ店のいずれであっても、パティシエが伝統を受け継ぐ、腕のある職人であるかどうかを確認しましょう。ショーケースをじっくり観察し、お店のスタッフに新鮮な素材を使った自家製のスイーツかどうかを確認してください。素材の産地や、その日の作りたてであるかどうかを聞いてみてもよいですね。厳密なチェック法ではないですが、こうすることで失敗は防げるでしょう。
フランス菓子を食する際にやってはいけないことはありますか?
腕のたつパティシエが自家製のパティスリーを作っていることを確認しても、まだ安心してはいけません。絶対にやってはいけないのは、冷蔵庫から出したてのパティスリーを食べることです。フランス菓子を最もおいしく味わうには、数分待ってください。口で言うほど簡単じゃないことはわかっていますが――冷たすぎると、クリームやパティスリーの風味が鈍り、食感も変わってしまうのです。

フランス旅行のお土産におすすめのフランス菓子は?
なかなか難しい質問ですが、親しい人々に喜んでもらえるよう、持ち帰ることのできるスイーツということなら、カヌレ、カリソン、パレ・ブルトン、ヌガー、ナヴェット、マドレーヌがおすすめです。本物のフランス菓子職人の作ったものであれば、必ず喜んでもらえるでしょう!