「ル・ソニエ・ド・カマルグ」 フルール・ド・セル

By 田村 亮

カマルグの自然と伝統が生み出す卓越した海塩の結晶 

 

地中海に面した湿地帯に位置する南仏の小都市、エグ=モルト。この地で2000年以上もの間、職人の手作業で生み出されてきた海塩の世界的ブランドが「ル・ソニエ・ド・カマルグ」です。太陽と海と風の作用により結晶化した極めて純度の高い海塩は、調理の“仕上げの塩”に最適。塩作りの伝統と職人の知恵、塩田を取り巻く豊かな自然環境を知り、料理に使うポイントを探っていきましょう。 

salins top

自然の宝庫、フルール・ド・セルの故郷カマルグ地方 

南フランスにあるカマルグ地方という場所を知っていますか? 

 

フランスの国土の東部を南下して、地中海へと流れ込む国内四大河川の一つ、ローヌ川。その河口付近に広がる三角州地帯に広がるエリアが、カマルグ地方です。 

この地域は、280種を超える植物が茂り、200種を超える動物が生息する生物多様性の宝庫。 

その非常に豊かな自然が広がるカマルグ地方の西方に位置する小都市、エグ=モルトに広がる塩田で採取されるのが、「ル・ソニエ・ド・カマルグ」ブランドのフルール・ド・セル(Fleur de Sel)です。 

 

塩田は南北18キロメートル、東西13キロメートルの広さで、パリの面積に相当する8000ヘクタールの土地に340キロメートルを超える道が網目のように張り巡らされています。 

「ル・ソニエ・ド・カマルグ」を展開する「エグ=モルト塩田(Salins d’Aigues-Mortes)」は、世界最大規模の自然保護ネットワーク「*Natura 2000」に署名し、塩田を取り巻く自然環境に大いなる敬意を払いながら、塩作りを行っています。 

 

 

フルール・ド・セル?聞き慣れない人もいるかも知れません。文字通り直訳すれば、「塩の花」。塩はわかりますが、どうして「花」なのでしょうか? 

 

「エグ=モルト塩田」のフルール・ド・セルは、日差しの強さ、海中の塩分濃度、ミストラルと呼ばれる強い風の影響など、この土地特有の希有な気象条件が完璧に整った時にだけ、塩田内の塩分がまるで水面に浮かぶ花のように結晶化します。しかも、この結晶化が生じるのは、夏場のほんの数週間だけなのだそう。 

フルール・ド・セルの採取時期には、塩田中の塩分濃度が高くなり、藻類が繁殖してカロテノイドを大量に発するため、水面が美しいオレンジがかったピンク色に染まります。 

この塩田の様子を日々観察し、気象条件が整って水面に浮かんできた塩の結晶を採取するのが、ソニエ(Saunier、塩職人)の役割です。彼らは、結晶化槽の塩濃度を絶えず確認し、塩田の水の動きを管理しています。実は、こうした自然の神秘の下、人の手作業で行われるフルール・ド・セルの採取方法は、紀元前4世紀の古代ローマ時代から現在に至るまで、驚くべきことにまったく変わっていないのです。 

 

紀元前4世紀から海塩の採取が行われてきたエグ=モルトでは、古代ローマ時代に塩収穫の組織化が進みます。時代は下って12世紀後半には、17の小さな塩田が稼働していたといいます。さらに19世紀に入り、1842年にローヌ川の大規模な洪水が起きたことを契機に、近隣の都市モンペリエの商人と提携。やがて、1856年に、現在に知られる「エグ=モルト塩田」が設立されました。 

 

天然の塩田から採取されたフルール・ド・セルは、当然ながら添加物もいっさい無添加です。2000年以上もの間、こうした伝統的な手法で生み出され続けてきた「ル・ソニエ・ド・カマルグ」のフルール・ド・セルは、フランス国内のIGP(Indication Géographique Protégée、地理的表示保護)の認証を受け、その伝統と品質が保護されています。 

 

フルール・ド・セルを調理の仕上げにひと振りして 

 

このように、塩田で“採取”したフルール・ド・セルは、日本でおなじみの精製塩のような“製塩”した塩とはまったく異なるタイプのもの。 

フルール・ド・セルは少し水分を含んだ塩の結晶であり、形状は繊細なフレーク状をしています。噛むとカリッとした豊かな食感があり、舌の上でゆっくりと溶けていきます。塩味は比較的穏やかで、海中のミネラルがたっぷり含まれ、力強い旨味があります。それが“塩のキャビア”とも称されるゆえんです。 

 

 

つまり、フルール・ド・セルは単なる調味料ではないのです。素材に下味をつけるための仕込みに贅沢に使ってもいいのですが、フルール・ド・セルの特徴をもっとも効果的に活かせるのは、調理の“仕上げの塩”的な使い方です。調理の仕上げにひと振りすれば、日常の料理はワンランク格上げされたものになるはず。 

ここで、家庭のキッチンでフルール・ド・セルの特徴を最大限活かすためのアイデアを紹介しましょう。 

 

おかず系の料理:グリル野菜やローストした肉、フレッシュサラダに振りかけると、さりげないカリッとした食感と風味がアクセントになり、いつもの一皿がぐっと引き立ちます。 

スイーツ:チョコレートを使ったデザートやキャラメル、クッキーにひとつまみ加えれば、甘さと繊細なミネラル感のバランスが楽しめます。 

風味づけに:ハーブや柑橘の皮、スパイスと組み合わせて、オリジナルの仕上げ用塩を作れば、シーフードやロースト野菜、前菜に、個性的な味わいをプラスできます。 

スナックや調味に:ポップコーンやナッツ、オリーブオイルをかけたトマトのスライスに振りかけると、素材本来の味が引き立ちます。 

カクテルの仕上げに:グラスの縁にフルール・ド・セルをつければ、より贅沢な体験が生まれます。 

 

このように、フルール・ド・セルは家庭料理からスイーツ、ちょっとしたスナックやカクテルにいたるまで、あらゆる料理やドリンクをぐっと引き立ててくれるのです。 

テーブルにパッケージごと置いても可愛らしい「ル・ソニエ・ド・カマルグ」のフルール・ド・セル。生態系に優しい自然素材のコルクの蓋、植物が茂るエグ=モルトの塩田の上空を飛ぶフラミンゴ、塩田を支え続ける塩職人……そのパッケージデザインには、フルール・ド・セルのエッセンスのすべてが描かれているようです。 

 

南フランス・カマルグ地方の豊かな自然環境と特異な気象条件、2000年もの伝統と職人の叡智が合わさり生まれる塩の結晶、「ル・ソニエ・ド・カマルグ」のフルール・ド・セル。 

ご家庭のキッチンで食卓で、南仏のエッセンスをひと振りすれば、料理の美味しさは昇華して、そこにカマルグ地方の情景が鮮やかに広がることでしょう。 

Contributor

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