フランス 「山のワイン」

By 岩田 渉

大西洋の気候の影響を受けるボルドーやロワールのペイ・ナンテ、または南からの地中海の太陽の恩恵を存分に享受するラングドック・ルーシンやプロヴァンス地方。このようにフランスには様々な気候環境が見られますが、今回はフランス東部に位置する「山のワイン」について紹介させて頂きたいと思います。

 その中でも注目する主な産地は2つ、ジュラ地方とサヴォワ地方のユニークで独特なワインについて深く掘り下げていきます。

まずはフランス東部、ジュラ山脈の西側に位置するジュラ地方。栽培されるブドウの品種は、西側に位置するブルゴーニュ地方との類似性が見られますが、この地方ならではの特徴的でユニークなワインがいくつも造られています。

フランスのA.O.C.の中でも最小の部類に入り、栽培面積はわずか2,000ha程度です。ただその一方で、全体の約15%もの栽培面積がビオロジックで栽培されていると言われており、フランス国内でもオーガニックワインの中心地の1つであると言えます。

この地方の白ブドウを代表する品種といえば、「サヴァニャン」が挙げられます。特にこのサヴァニャンを使用し造られる「ヴァン・ジョーヌ」はフランスだけでなく、世界を代表する特質的なワインです。「黄色ワイン(Vin=wine, Jaune=Yellow)」と訳されるように、このワインが持つ外観は深みを帯びた黄色で、アーモンド、ヘーゼルナッツ、蜂蜜やメープルシロップ、カレーパウダーなど香りには幾重に重なるような複雑なキャラクターを帯びています。その理由はこのワインの熟成過程にあります。「フロール」や「フルール」と呼ばれる産膜酵母の元で熟成されるからです。小樽の中で特殊な酵母を介して発生する膜の元で熟成させ、収穫から数えてなんと6年目の12月15日までは樽のなかで熟成させる必要があり、その内の60ヶ月もの間、産膜酵母のもとでワインを寝かせる必要があります。その間に、「ウイヤージュ」という酒をすることも「スーティラージュ」という滓引きすることもできないため、ワインも特殊な酸化熟成の過程を経るのです。産膜酵母がワインに与える香りにはヘーゼルナッツやアーモンド、そして青リンゴのようなフレーバーを与えます。これはフロールがワイン中に含まれる、アルコールを「アセトアルデヒド」に分解することによって生じる香りです。また、長い熟成期間が「ソトロン」という特殊な芳香成分を生みます。これが独特なフェヌグリークと呼ばれるようなカレースパイスや蜂蜜のような香りを生むのです。このように長い時間をかけて造られるヴァン・ジョーヌは複雑味を帯びた非常に複雑で特殊なワインであり、それ故にまだまだその価値が広く知れ渡っていないのが現状であります。ただこのクラヴランと呼ばれる620 mlの特有の瓶に詰められるワインこそ、ジュラ地方のワインの歴史を語る上で欠かせないワインであり、特に地元の山で造られるハードタイプのチーズと合わせたときのペアリングは最高のハーモニーを奏でてくれます。特に秀逸なのが、この地方で造られる「コンテ」というハードタイプのチーズです。山の清らかな野草を食べて育つ、上質な無殺菌の牛のミルクから造られる大型のチーズ。最低120日間の熟成が必要となりますが、特にヴァン・ジョーヌと相性が良いのが、24ヶ月熟成させたものです。チーズからも同じように香ばしいヘーゼルナッツのアロマや爽やかな白系果実の香りがするなど、ワインが持つ香りとの調和は見事なものです。食後にチーズをつまみながら、ヴァン・ジョーヌと楽しむ時間というのは唯一無二の至福時間です。

 またもう一つの山のワインといえば、スイスとの国境に位置しるサヴォワ地方です。アルプス山脈の麓に位置する、清涼な山のテロワールがしっかりと映えたワインが造られるエリアです。A.O.C. Savoieには様々な付記可能な地理的名称があり、それぞれのエリアで異なった品種が使われながら、その個性を存分に発揮しております。ジャケールやアルテス(ルーセット)と呼ばれる品種から造られる白ワインは山のワインならではの味わい。高い標高がもたらす、清らかで凛とした酸の質感と、爽やかなリンゴや洋梨のアロマが顕著で、地元ではチーズフォンデュやグラタンなどと一緒に楽しまれています。

 発泡性の白ワインである「クレマン」でも有名なサヴォワですが、そんな中私が一押ししたいのは「Bugey Cerdon(ビュジェイ・セルドン)」と呼ばれる発泡性のロゼワインです。このワインはガメイとプールサールを用いて造られ、「Methode Ancestrale(メトード・アンセストラル)」という技法を用いても造られますので、ほのかな残糖分が残るような、軽やかで、明るい味わいのスパークリングワインです。アルコール度数も低いものが多く、そのライトなテイストから、近年ではミレニアル世代の方々にも人気があり、注目を集めております。特に春から夏にはには、キリッと冷やして、アペリティフとして楽しむのに最高の味わいであり、そのジューシーな味わいと優美な果実味、そして仄かな残糖感が中華料理のようなスパイスや香辛料を使用した料理との相性も素晴らしく、クラシックなペアリングだけでなく、様々なお料理とも楽しんでいただけるような汎用性の高さもあります。サヴォワのワインは特に地名もマイナーなエリアが多く、いまだにたくさんのスポットライトを浴びていない産地ではありますが、これらの山の産地こそ、フランスならではのワインの多様性溢れる文化で満たされております。ぜひ、この機会にフランスの「山のワイン」を楽しんでいただければと思います!

Contributor

M.IWATA_FINAL
岩田 渉

ソムリエ

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